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(どうして話さない……? 自分がサンタシのフェルデン・フォン・ヴォルティーユの手に掛かり、殺されかけたことを……!)
そんなことが発覚すれば、裏切りと見なされ、フェルデンも自分も良くても監禁、最悪は殺され兼ねない。
最悪の場合には、なんとか隙を見てフェルデンだけはうまく逃がさなければならない、とユリウスは逃亡計画まで立てていた。
しかしうまく逃げおおせても、ゴーディアとサンタシの戦争再開は免れないだろう。
「陛下が何も仰らないのなら、こやつに聞きましょう。サンタシの使者、クロウ陛下に何があった」
ユリウスは重苦しい空気の中、ゆっくりと口を開いた。
「貴方がお考えの通りです。クロウ陛下は……」
「首を絞められて殺されかけた」
ユリウスの話を遮るように、朱音ははっきりとした口調で言い切った。
「だけど、誰にやられたのかはわからない。暗くて、よく顔が見えなかったから」
月明かりが差し込むあの廊下で、少年音が相手の顔を見ていない筈は無かった。
それにユリウスは、駆けつけた際に確かにフェルデンに向けて「殿下」と呼んだことを覚えている。
例え暗がりで顔が見えなかったにせよ、自分を殺そうとした相手がサンタシの王子であることは少年王でもすぐに分かることである。
「この人は、わたしが襲われているときに助けてくれただけだよ」
このまだ幼さの残る少年王が、フェルデンを庇っていることは明らかだった。
魔王の側近は目を細めると、じっと小柄な騎士を疑わしい目つきで見つめた。
勘の鋭いこの男は、既に誰が犯人なのかを心中で察しているようだった。
「ほう、我が国の王を救ってくださった恩人とはそれは失礼を。この国の祝い事に紛れて招かざる客が紛れ込んでいるようですね。直ぐに兵に命じて捜索させましょう」
気まずそうに下を向くと、朱音はちらりと小柄な騎士を盗み見た。
モスグリーンの優しげな瞳は、戸惑ったように朱音の黒曜石の瞳を見返してきた。
「きっともうこの城にはいないと思う。この人が来てくれたとき、驚いて窓から逃げてったから……」
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