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アザエルは全てを知っているかのようにふっと口元を緩めると、
「そうですか……」
と一言言うと、それきりそのことについて触れてくることはなかった。
「ねえ、クイックル」
窓の外からちょんと部屋の中へ入ってきた真っ白な鳩がきょとんとした目で首を傾げる。
「わたしは一体誰だと思う?」
砕いたクッキーを手の平に載せて差し出してやると、小さな白い友達は、嘴でそれを上手に啄ばみ始めた。
「あの人に殺したい程嫌われてしまって、わたしはどうして生きていったらいい? あの人に会えないのなら、もう生きている意味なんてないのに……」
朱音は気が緩めば滲む目尻の涙を、黒い服の袖でごしごしと擦った。
ルイが言うには、黒はこの国で最も高貴な色で、その色を身につけることが許されているのは国王とその親類だけだということだ。
考えて見れば、あの魔王ルシファーの側近であるアザエルでさえ、黒に限りなく近い藍の衣服を着ているところしか見たことがない。
コンコンというノックの音で、いつもの従者服に身を包んだルイが顔を覗かせた。
「クロウ陛下! 起きてらっしゃったんですね!」
ひどくほっとした顔で、ルイが朱音の元へと駆け寄ってきた。
昨晩、大広間から突然抜け出して消えてしまった朱音を必死で追いかけ探したにも関わらず、結局ルイは見つけ出すことができなかった。
その上、アザエルによって部屋へと運ばれてきた朱音の首には、明らかに何者かによって締め付けられたような痣がくっきりと残っていたのだ。
「わたしは何があってもこの方から目を離すなと言っておいた筈だが」
冷ややかな氷のような目がルイを見据え、ルイは霞んだ灰の瞳を見開いた。
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