第2章 ゴーディア編

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  ユリウスは、少年王がここにいる魔王の側近を快く思っていないという事実に少々驚いていた。 「サンタシへ向かう途中二人を殺して逃げるつもり? それとも、二人を人質にとってサンタシに先制攻撃でも始めるとか?」   大きく黒い瞳に怒りの色を見え隠れさせて、朱音はアザエルをきっと下から睨み上げた。 「ふ……、どこまでもわたしは信用されていないようですね」   アザエルはほとんど変わらない表情のまま、くすりと鼻で笑った。 「あんたが諸悪の根源だってことはわたしでもわかる!」 「陛下?!」   後ろから灰の髪を揺らしながら、従者の少年がぱたぱたと駆け寄ってくるのが見える。 「酷い言われようですね。でも、今回は本当に素直に身柄を引き渡されますよ。わたしとて、ルシファー陛下が御自分の命と引き換えに守ったゴーディアを、危険に陥れることなどしたくはありませんからね」   淡々と話すアザエルは、自分の手首に嵌められた枷を朱音に見せた。 美しく彫刻された一見腕輪のようにも見える金の枷は、女性のように美しいアザエルの手首にしっかりと嵌っている。 「それにこれがある限り、わたしは魔術を使用できないですし」   アザエルの背後で、小柄の騎士ユリウスが口を開いた。 「その手枷は、魔力を無効化する特殊なものです。魔族の罪人を護送する際に使います」   朱音は不意打ちを食らったような顔をして、その金の手枷に触れる。 得意の魔術を封じられ、自分自らサンタシに行こうとするアザエルの真意が全く読めない。   朱音に追い付いたルイは、事の成り行きを解せず、息を切らせながら心配そうにその様子を見守っていた。 「さて、いよいよお別れでしょうか。ルシファー陛下のお望みを叶え、貴方をこの国へ連れ帰り、貴方のお姿を拝見できたこと、光栄でした」  柄にもなく、アザエルはもう二度とここへ戻ってくることがないような口振りで言った。 「クロウ陛下、貴方にまだ魔力が戻っていないことを、決してそこにいるルイ以外の者に洩らしてはなりませんよ。周りは全て敵だとお思い下さい……」  
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