第2章 ゴーディア編

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  そっと朱音の耳元でそう囁くと、アザエルは二人のサンタシの使者に向き直った。 「アザエル閣下……!」  ルイが思わず声をあげた。 「わたしが留守の間、陛下を頼んだぞ」   振り向きもせず、アザエルは荷馬車に乗り込んだ。フェルデンがぴしりと馬に鞭打つと、ゆっくりと荷馬車は動き始めた。   結局最後まで金の髪の青年を直視できなかった。 まだ見る度に痛む胸を押さえながら、もう二度とその腕の温もりを感じることはできないだろうと、朱音は遠ざかる馬車をいつまでもじっと見つめる。   そして、世界で一番憎い筈のあの碧髪碧眼の男が、少しずつ遠ざかっていくというのに、なぜかツキリと胸が痛んだ。  
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