第2章 ゴーディア編

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  朱音はつまらなさそうに執務室のデスクに肘をつき、すっかり溜まってしまった書類にぼんやりと視線を落とした。 国王としてのデスクワークは以前、全てアザエルがこなしていた。 それを、何もわからない朱音がルイに相談しながら進めるしかない今の状態に、朱音自身疲れ切っていた。   半端ない量の検討資料、政策。 ただの受験生だった朱音にはどれも難しすぎるものばかりだ。   それでも、こうして仕事に費やしている時間だけは、サンタシの美しく優しい騎士のことを思い出さずに済み、いくらか朱音は救われていた。 何もしないでじっとしていたら、朱音は今頃おかしくなっていたに違いない。 それこそ、儀式の前のように窓から身を投げてしまっていたかもしれない。 「元老院の年寄りどもは、陛下に黙って罪人アザエルを暗殺する為に幾人かの腕利きの刺客を放ったようです」   朱音はぴくりと身体を反応させた。   ヘロルドは、その様子を目にし、しめたというような笑みを浮かべた。 「それは本当ですか……!?」   ルイは信じられない思いで、痩せた男のぎょろぎょろした目を見つめた。 「はい。魔王陛下の側近を務める男が敵国に渡ったとなれば、こちらの不利な情報が漏れるかもしれません。元老院はそれを恐れたのでしょう」   朱音は急に早鐘のように高鳴り始めた心臓を左の手で押さえた。   アザエルの手首に嵌められた手枷が脳裏に蘇る。今や魔術を封じられたアザエルや、剣の腕の立つフェルデン、小柄な騎士ユリウスの三人が、ゴーディアの刺客に襲撃される様を想像しただけで、朱音はどうしようもない不安に苛まれた。 「しかし、国家の最高権力であるクロウ陛下に相談も無くそのような行動を起こすなんて、一体どういうおつもりでしょう?」   ルイは納得のいかない顔で腕組みをして言った。 「失礼ながら……、クロウ陛下がお目覚めになってからはまだ時間がそれほど経過していません。それに、まだ体調も万全ではないようですし、元老院もそれを念頭に置いたのではと……」   遠まわしな言い方ではあったが、ヘロルドが言っているのは少年王の魔力についてのことであった。少年王の身体から魔力が感じられないことに、城の中の者達も薄々勘付き始めていた。
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