第1章 サンタシ編

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  抱えられた手足をバタつかせるが、男の腕に力が加えられてそれも呆気なく封じられてしまう。 「ご無礼とは承知でお迎えにあがりました。今ここでお放しすることはできません。時間に限りがありますので」   月明かりで男の顔がうっすらと浮かび上がる。 吸い込まれそうな冷たい碧い瞳。息を呑む程の美しい顔立ちは、見慣れた大和の顔立ちではなかった。 瞳と同じ碧い髪は長く、一つに結わえられている。 全てにおいて整いすぎている男の表情は、“冷たい”という言葉が適切な表現のようにも思える。 「あ、あなた、誰……?」 瞬きをするのも忘れて、大きく目を見開いた朱音はかろうじてその言葉を発することができた。 「私は魔王陛下の側近、アザエルです」  男の言葉の意味が理解できずに、咄嗟にまだ自分が夢の中にいるのではないかと、朱音は首を捻った。 「魔王陛下……?」 気がついてみると、ここは屋外。 月の光が妙に明るいのはそのせいだったのだ。 「えっ、ここどこ!?」  
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