第2章 ゴーディア編

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「ふう……」   男の出て行った部屋で、朱音は机に突っ伏した。強がっては見たものの、今の朱音には魔力の“ま”の字さえない。 「陛下、お見事でした」   ルイは柔らかな笑みを朱音に向けた。 その笑みを浮かべた頬は、なぜかほんのりと赤い。 「僕なんかを側近と言ってくださるなんて、僕、もう死んでもいいです」   霞がかった灰色の瞳はきらきらと潤んでいる。 「何言ってんの、そんなことで死なないで! それに、わたしはルイを側近だなんて思ってないよ?」   朱音は呆れたように突っ伏したままルイを見上げた。 「え???」 ひどく残念そうに口を尖らせるルイに、朱音はぷっと吹き出した。 「だって、ルイはわたしの友達でしょ? だから側近なんて思ってないよ」 ルイの顔が一瞬きょとんとしたかと思うと、耳まで真っ赤に染まった。 「そんなことより……、どうしよう、元老院の放った刺客っていうのは……」   朱音はぐしゃぐしゃと艶やかな黒い髪を掻き乱す。 朱音が気が気でないのは、誰でもないフェルデンの安否だった。 深く心に傷を負った優しいサンタシの騎士に、憎まれようとも嫌われようとも、彼にはこれ以上の苦しみを味合わせたくはないし、どんな形であれ、生き延びていて欲しかった。   そしてその彼と親しいようであったあの小柄の騎士、ユリウスにも無事にサンタシへと辿り着いて欲しいと心から思った。 彼ならば、傷ついたフェルデンを支えてくれる、なぜかそんな気がしたからだ。   それなのに、なぜか憎くて大嫌いな氷の男、アザエルの姿が頭をちらついて仕方がない。 あの男のことだ、簡単にはやられてくれまい。 しかし、魔力を封じられた今、腕利きの刺客とやり合うとなれば、只では済むまい。 (あんなやつなんて、死んでしまったってどうってことないのに!) 「ねえ、ルイ。友達なら、わたしを信じてくれる?」   朱音は乱れてしまった頭を起こして、ぎゅっとルイの手を握った。  
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