第2章 ゴーディア編

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【19話 双子の過去】 朱音は唯一の理解者であるルイが見守る中、短い手紙をしたためていた。   慣れない羽ペンで走らせた文字。 最後に合言葉の『白い鳩』と記した。 その紙を折り畳むと、窓の外でちょこんと日向ぼっこをするクイックルの足に結わえ付けた。 「クイックル、頼んだからね」   いつもは首を傾げてあまり窓枠から離れようとしない白鳩だったが、少年の声に返答したかのようにホロホロと喉を鳴らすと、パサリと羽を広い空へと舞い上がった。 (どうか、なるべく早く届きますように……)   一度だけしか顔を合わせたことのない謎多き美容師クリストフ。 不思議なことに朱音はあの男に、今は小さな希望を託していた。 そしてあの小さな友だちクイックルにも同じような想いを。 ルイはしつこく一体誰に手紙を書いたのかと訊ねてきたが、朱音はそのうち分かる、とだけ言って、詳しくは何も教えなかった。   その晩のこと、いつもならばルイはとっくにクロウの私室から退室している時間だというのに、朱音は下がろうとするルイをなんとか引き止めて残させていた。 「陛下、一体何をなさろうとしているのです? それ位なら僕にも教えてくれたっていいんじゃないですか?」   呆れたように腕組みをするルイに、朱音はくすりと笑った。こ うして見ると、やっぱりサンタシの少年術師に、瓜二つであった。 これはもう赤の他人だなんて言い切るにはもう無理が生じていた。 「ねえ、ルイ。ロランとはどういう関係なの?」   ぶしつけな質問だとは分かっていたが、もうルイもロランも朱音にとっては大切な友達で、そのことを見て見ぬ振りをするには限界が近づいていた。 「ロランを知っているんですか……!?」   顔色を一遍に変え、灰色の少年は黒髪の主をまじまじと見た。  
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