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ヘロルドは床で転がったままの忠臣の頭を固い靴底で踏みつけ始めた。
「うっ、も、申し訳ありませんでした、ヘロルド閣下……」
痩せ身のボリスは、頭を踏みつけるヘロルドの靴を退けようと、その足首に指を這わせた。
「いいか、無能なお前を拾ってやったのは一体誰だ? このわたしではないか! よいな、役立たず、今すぐ奴の後を追い、その命を必ず奪うのだ!」
ヘロルドの恐ろしい物言いに、ボリスは床の上でブルッと一つ震えた。
「で、でも……、ヘロルド閣下、新国王には魔力が無いとおっしゃっていましたが、あの風……、とてもそうは思えませんでした……。わたしなどが王の命を奪うことなど……」
怯えたボリスが全てを言い終わらないうちに、ヘロルドはもう一撃を忠臣の腹に入れた。
「うぐっ!!」
「黙れ、この役立たず! 無能は無能らしく相手に見くびらせて隙をつくという姑息な手があるだろうが。この馬鹿めっ」
ボリスは歪んだ視界でもう一度頬骨の出た、痩せた主を見上げた。
「いいか、よく聞け。お前がもしその手でクロウを暗殺できたなら、わたしは晴れてこの国の国王だ。そうなれば、お前をわたしの側近にしてやらないでもない」
ヘロルドが大きな口元を気味悪く引き攣らせると、ボリスはその目を嬉しそうに見つめた。
「ヘロルド閣下! 今度は巧くやります……!」
クリストフは暖炉に火をくべ、温かくて甘いココアのような甘い飲み物を二人に手渡してやった。
「クリストフさん、この家、留守みたいですけど、こんな風に勝手に入っちゃって平気なんですか?」
朱音は、クリストフがどこからか調達してきた毛布にくるまりながら、湯気の立つカップに口をつけた。
「いいんですよ、彼とはとても親しいんです。こんなこと位で怒るような男じゃない」
クリストフは、長くカールした睫で一つウィンクし、再び暖炉に木をくべ始めた。
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