第3章 旅編

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  オレンジ色の炎がパチパチと音を立て、部屋の冷えた空気を少しずつ暖めていく。   山道を逸れた小さな村は、少し落ち窪んだ場所にひっそりと存在していた。  こじんまりとした木の家が四軒程建ち並び、三人が入った家はその中でも特に小さな山小屋であった。   小屋の中には小さな古いベッドが一つと、暖炉、そして丸い二人用のテーブルが一つ。 部屋のあちこちにスケッチ用の道具が散在し、いくつか家主が描いただろう絵も壁に貼り付けられている。 その多くは自然を描いたものばかりであった。 「この家の人、絵描きさんか何かかな? ね、ルイ?」   ずずずっと飲み物をすすると、黒髪の少年が近くで同じように毛布に包まっている灰の髪の少年に振る。 「え、あ、そうですね……」   急に話を振られてあたふたとするルイを尻目に、クリストフが言葉を重ねた。 「そんなことより、そろそろ聞かせては貰えないですか? クロウ陛下。貴方がなぜ白い鳩でわたしを呼んだのかを、そして、これからどうしたいのかを……」   朱音は静かに瞼を閉じた。 毛布と暖炉の温かさが身体を包み込み、実のところ、まどろみそうになっていた。 「そうですよ、クロウ陛下。一国の王が城を空けて出てくるなんて、一体どういうおつもりです?」   ルイは羽織っていた毛布をがばりと外し、ずいと朱音に詰め寄った。 「そうだよね、二人には何も話さないで巻き込んでしまって、ほんとに悪いことしたよね、ごめん……。だけど、今のわたしではどうすることもできなくって、クリストフさんとルイの助けがどうしても必要で……」   ごとりとカップを木床に置くと、朱音はルイとクリストフの顔を交互に見た。 「クリストフさん、わたしはある人達が 無事に故郷に辿り着くのを見守りたいんです。手伝っていただけますか?」   ルイは信じられないことを耳にしたという表情で、呆けたまま朱音の顔を見つめている。 「その、ある人達、とは一体どなた達です?」  薪をくべる手を止めて、クリストフが真剣な眼差しで朱音の顔を覗きこんだ。 「……サンタシの遣いの者達です……」   クリストフは変わらぬ表情のまま言った。
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