第3章 旅編

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「アザエル閣下は魔力を封じられているのですか? それは少々きついかもしれませんね……」   ふむと腕組みをしてクリストフは考え込んでしまった。 「しかし、サンタシの王族騎士に直接会えないというのは……?」   動揺して急に落ち着きをなくした朱音は、被った毛布を無駄に引っ張ったり、乱れてもいない髪を手櫛で整えたりし始める。 「えっと、その、だから……」   そんな主の姿に堪らず、ルイはとうとう口を口を挟んだ。 「サンタシの王子は陛下を覚えていないのです。記憶をなくされたようで、今は敵国としての認識しかありません。そんな相手に、国王自ら近付いて、我国が刺客を送った、などと直接話などできますか? そんなことを言えば、今より国同士の確執は強くなるでしょうね」 「まあ、確かに……」   ルイの機転のきいた嘘に、納得はしていないようだが、クリストフは取り敢えず理解は示してくれたようだった。   クリストフは、空になった朱音のカップを受け取ると、古ぼけた丸テーブルの上にことりと置いた。 「わたしは無理に全てを聞きだそうとは思いません。陛下が望んだときに話してくださればれでいいですし、話さずずっと心の中に仕舞っておかれるのも自由」    驚き見開いた朱音の真っ黒な瞳には、暖炉の火が映り込み、その中でオレンジ色に美しく燃えていた。 「ただ、一つだけ質問することをお許しください。いつか、陛下は今の自分が自分じゃないと話しておられましたね。陛下、これは自分探しの旅ですか?」   ルイが見守る中、朱音はしっかり頷いた。 「うん、そうかもしれないね。今のわたしは中身と器がちぐはぐだから……、今生きてる意味を探さなきゃ」   ふっと目を緩ませて、クリストフは笑みを零した。 「それを聞いて安心しました。陛下が望むのであれば、わたしはサンタシの遣いの者達から着かず離れずの距離をとっての旅の手助けをすると誓いましょう」   優雅にお辞儀をすると、クリストフは静かに朱音の白い手をとった。 「これでも、私は人を見る目があるのです。でも、これだけは覚えておいてください」
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