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「こりゃあ驚いた……。あんた、えらい別品さんだねえ! エリックのこれかい?」
小太りな女は、空いた左の手の小指を立ててにかりと愛想よく笑った。
「あの……」
どう反応していいものかと戸惑っていると、ギイと音を立てて小屋のドアが開いた。
「おはよう、アレットおばさん」
焦げ茶のくるくるとカールした髪にちょっぴり寝癖をつけたクリストフが、寝惚け眼で背中をかきながら出てくる。
「おや、エリック。お前さん、いつ帰ったんだい? 私も旦那もあんたの帰りを今か今かと待ってたんだ、帰ったんなら声ぐらい掛けなさいな」
女は、転がった芋を屈んで拾い上げると、腰に手をやって言った。
「すみません。昨日は着いたのが遅かったものですから、声を掛けるのは控えたんです」
クリストフはいつの間に着替えたのか、白いカッターと茶色いチェックの入ったベストを身につけ、昨晩の闇夜に紛れる為に扮した紺の上下は既に取り払われていた。
「それより、そこのえらく別品なお嬢さんはどなただい? 奥手なお前さんが連れて来た初めての子じゃないか、ひょっとして、お前さんもとうとう身を固める決心が着いたね!?」
朱音はきょろきょろと周囲を見回した。
アレットが言った“お嬢さん”がどこにいるのかと思わず探したのだ。
くすりと笑うと、クリストフは朱音の手をとって耳元でこう囁いた。
「アレットおばさんが言っているのは、貴方のことですよ、陛下」
ぎょっとしてクリストフを振り返る。
確かに魔城ではさんざん美しいだとか魔王の生き写しだとか言われてはきたが、まさか“お嬢さん”などと言われるなど思いもしなかったのだ。
ましてや、今はクロウという少年の姿である。
「お前さんたら、ある日突然王都の景色のデッサンに行くって言ったっきり、もう三ヶ月も留守にして……。突然帰ってきたと思ったら、こんな年端もいかないお嬢さんを連れ帰ってくるなんて」
呆れたように笑うと、アレットは籠の中の芋を二つ程手にとって朱音に差し出した。
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