第3章 旅編

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ファサファサと羽ばたいて飛んできたクイックルは、飼い主の肩にご機嫌でとまった。 「ふ~ん、クリストフさんは腕のいい美容師だって話だけど、エリックさんは絵を描く人なの?」   小屋の中に転がっていたデッサンに使う道具の数々、描かれた絵たち。 「まあ、自称売れない画家ですね。売れない画家の肩書きって便利いいんですよ? 好きなときに好きなだけ、好きなところへデッサンの旅に出られるんですから」   クリストフは、デッサンを描く空真似をしながら、朱音に小さくウィンクを送った。   朱音は、クリストフという男が、ますます謎に包まれていることを改めて感じた。 「さて、そんなことはさておき、アレットおばさんにもらったトト芋を使って、温かいスープをご馳走しますよ」   これ以上詮索される前にと、クリストフはくるりと朱音に背を向けて小屋のドアに手を描けた。   肩の上の白鳩は、じっと身動き一つせずにいる。 「クリストフさん!」   なんですか? と振り向いた謎多き男に、朱音は思い切って話しを切り出した。 「お願いがあります……!」   ドアに手を掛けた手を引っ込めて、クリストフは少年王の正面に向き直った。 何か大切なことを言おうとしている朱音の様子を察知したのであろう。 「はい?」   彫りが深く顔立ちのはっきりとしたクリストフの焦げ茶の瞳が、長い睫がじっ朱音の次の言葉を待っている。 「旅の間、わたしのことは朱音と呼んでもらえませんか? これからはただの友達として……」  しゅんとうな垂れてしまった少年の姿をじっと見つめた後、クリストフは優しく微笑み返した。 「ええ、わたしも貴方とは友達になりたいと思っていたんです。構いませんよ、アカネさん」  長い間その名で呼ばれることの無かった朱音は、懐かしい響きに思わず顔を綻ばせた。
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