第3章 旅編

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   魔城を出立してから既に三日が経過していた。    行きは馬を全力で飛ばして一日で向かった道のりだったが、こうして荷馬車でガタガタと揺られながらでは、想像以上の時間がかかっていた。 「フェルデン殿下、今日はもうこれ以上は無理かと……」   ユリウスが荷台で項垂れるようにしてもたれ掛かる青年に声を掛けた。 「兄上が待っている……、いいから進め」   掠れた声には力が無く、うまく隠してはいてもほんの少し息が上がっているのがわかる。 「具合が悪そうだな」   後ろ手に縄で縛られたアザエルが感情の無い声で言った。 その声は前で鞭を操作するユリウスの耳には届いていない。 「黙れ」   俯いたまま、フェルデンは怒気を含む声で言った。 「まだ傷は塞がっていないのか?」 アザエルの質問に、青年は無言を通したまま返事をしようとはしなかった。 案の条、傷の治りきらないうちの無理が祟って、フェルデンの肩の傷は悪化していた。 熱をもった傷口は膿み、疼きをもたらした。 その為、フェルデンは高熱に悩まされ、痛みと朦朧とする意識の中で必死に闘っていたのである。 「殿下! やっぱり医者に診て貰った方がいいです……!」   ユリウスは突然馬の足を止めると、勢いよく背後を振り返り、荷台に身を乗り出した。 「なんともない……」   ユリウスは俯くフェルデンの額に手の平を宛がった。 「なんですか、この熱! どうして今まで黙ってたんですか!?」   ユリウスは軽い身のこなしでひょいと黄土色の手荷物を引っ掴むと、中身を全部ひっくり返してぶちまけた。 「ああ、くそっ、腹痛薬しか入ってない!」 と、腹立たしくぶちまけた中身を蹴飛ばすと、ユリウスはドサリと腰を降ろした。
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