第3章 旅編

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「焦っても仕方が無い。次の道を左へ抜けるとボウレドの街がある。そこならば顔利きの街医者もいる。まずはそこへ向かえ」   アザエルが表情の無い顔のまま、ぽつりと言った。    この三日というもの、魔力を奪う腕輪を嵌められた魔王ルシファーの側近は、一度も口を開いていなかった。   フェルデンとユリウスが万が一のことを考え、男の両手首には縄がきつく結びつけられ身体の自由さえも奪い拘束していた。 「そんな必要なんてない、ユリ、いいから予定通り港へ迎ってくれ」   ボウレドへの道は、二人のサンタシの遣いが向かっている、アルノ船長の待つ港からは大きく逸れることになる。 「サンタシの者は噂通り愚鈍な者が多いようだ」   見下したようなアザエルの口振りに、 「なんだと!」 と、ユリウスが掴みかかった。 「ボウレドならばここからさほど離れてはいない。急げば日が暮れるまでには到着できる。しかし港まではまだ少し距離がある、野宿は免れないだろうな」   ユリウスはちっと舌打ちをすると、身動きのとれないアザエルの服から仕方無く手を離した。 「ユリ、おれはなんともない。これはこの男の策略だ、騙されるな。港から遠ざけ、おれ達が母国へ帰るのを妨害する気だ」   熱のせいで潤んだ目をユリウスに向けたフェルデンは、すっかり熱くなっている手で部下の腕を力無く掴んだ。   ユリウスは困惑した。   ここにいる碧髪の男は蛇のように狡猾で信用ならない。   しかし、フェルデンの身体は、このまま旅を続けるには限界がきていた。 今夜山中で野宿をすれば、いくらタフなフェルデンとは言え、ただでは済まないだろう。 膿んだ傷が悪化して最悪は死も考えられなくもない。 「ふ……、わたしもえらく信用されていないものだな……。まあいい、サンタシの遣いが山中で野垂れ死のうが、わたしには関係の無いことだ」  
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