第3章 旅編

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【22話、いざ、ボウレドへ】 「さて、我々もそろそろ出発しましょうか」   クリストフは、肩の上で毛づくろいをするクイックルの足を優しく手の平に乗せてやる。   ルイは不機嫌な顔で眉に皺を寄せた。 「ぼくは貴方を信用した訳ではありません。今度は一体どこへ連れて行くつもりなんですか」   従者の少年は今朝方、クリストフの手によって、旅をするのに君の従者服は不似合いだ、と半ば強制的にだぼりとした薄黄色のカッターに、寒さを凌ぐ為の大きめのトレーナーを羽織らされていた。   勿論、この小さな小屋のような家が、クリストフのものだとはまだ気付いていない。 「ボウレドです」   小屋の外へと二人を誘いながら、クリストフは小声で白い鳩に何か囁くと、それを空へと放った。   霧は晴れ、日もすっかり昇っているようである。 「なんですって、ボウレド!? ボウレドなどにどうして行く必要があるんです!? サンタシの遣いは国へ帰るんですよ? 大陸の東の先端、港街メトーリアに向かうのが通常でしょう!」   朱音が二人の後について小屋を出ると、ルイが声を荒げていることに気付き、慌てて二人の間に割って入った。 「ルイ、どうしたの? 落ち着いて?」   ルイは突然現れた謎多き美容師の正体が、ひょっとすると元老院かヘロルドの手先かもしれないと思い始めていた。 民間人で、あれ程の魔力を発揮し、誰にも気付かれずに魔城に忍び込むなどの所為をいとも簡単にこなしてしまうことに嫌疑を掛けていたのである。 そう考えると、サンタシの遣いが魔城を訪れていたことを知っていたことや、その遣いがサンタシの王子フェルデン・フォン・ヴォルティーユだという情報を得ていたことにも納得がいく。 「小鳩に空から調べてきて貰ったのですよ。夜明け前、港街メトーリアに向かった筈の使者達を乗せた荷馬車は、道を大きく逸れ、ボウレドの街に向かったそうです。なんらかの事情で立ち寄らざるを得なくなったのでしょうね」   朱音は、朝霧の中で小屋の窓を叩くクイックルの姿をふと思い出した。
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