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「クイックルが調べてくれたの!?」
目をきらきらさせてクリストフの傍に寄り付く黒髪の主に、ルイはあたふたとする。
クロウを陥れようおとする者達の仲間かもしれないのに、疑がう心を微塵も見せない純真な主が、あまりに心許無く、従者の心に不安を掻き立てる。
「クイックル?」
ぱちくりと瞬きをして首を傾げるクリストフに、
「そう。わたしがつけたの! クリストフさんの小さなお友達」
ああ、と手をぽんと軽く叩くと、クリストフは破顔させた。
「彼女に名前をつけてくれたんですね! 素敵な名前です」
朱音は少し驚いてぽりぽりと筋の通った鼻を?いた。
「クイックルって女の子だったの? わたしはてっきり男の子だとばかり……」
すっかり打ち解けた雰囲気と距離に、ルイが思わずはらはらして割って入る。
「そんなことより! ボウレドですよね!? で、どうするんです?」
疑り深い目を向けるルイに、クリストフは苦笑を洩らしながら言った。
「昨日、元老院がアザエル閣下の暗殺の為に刺客を放ったと言っていましたよね? クイックルの情報によると、まだ彼らは無事な様子ですし、刺客はまだ仕掛けてはいないようです。・・・となれば、ボウレドで何か起こるかもしれませんね……」
すらりとした指でクリストフは揉み上げに触れた。この仕草は、何か考えるときの彼の癖のようである。
「それってやばいよね!? わたしたちも早く追いつかないと……」
朱音が血相を変えてクリストフの顔を見つめ返した。
アザエルに危険が迫っていることもあり、ルイは仕方無く今は男の言うことに素直に従うことにした。
しかし、この謎多き男がいつ正体を現すかもわからないし、何か企んでいる可能性は捨てきれない。
朱音がいくらこの男を信用していようとも、自分だけは決して信用しないで主を守ってみせる、とルイは心の中で決心した。
「ボウレドまではここからだとまだ随分距離があります。風に乗って行きましょうか」
何でもないことのようにクリストフは言ったが、ルイは内心ギクリとしていた。
実は、二人には言ってはいなかったが、ルイは極度の高所恐怖症だったのだ。
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