第3章 旅編

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「ルイ?」   霞みがかったルイの灰の瞳が大きく動揺しているのに気付いた朱音が心配そう顔を覗きこむ。 「では、いきますよ!」   その瞬間、再び突風が巻き起こった。  木の小屋が吹き飛ぶのではないかという強風。   三人の身体がふわりと宙へと舞い上がった。 「!!!!!!」   気持ち良さそうに風に身体を任せる朱音と、声も出せない程に顔を引き攣らせる灰の髪の少年、そして謎の美容師クリストフはボウレドに向けて旅を再開させたのである。 「これはひどい……、こんな傷でよく今まで旅を続けてこられたものだ……」   街医者のフレゴリーは熱に浮かされた青年の肩の傷を手当てしていた。   フェルデンの意識は朦朧としており、ひどい高熱で額に大粒の汗を浮かべている。 「今すぐに傷を切開して悪い血を出さねばならん……」   フレゴリーは切開用のメスを医療具の入った引き出しから手にとると、アルコールの入ったトレーの中に浸して殺菌を始めた。   ユリウスはごくりと唾を飲み込んだ。尖ったメスがぎらりと光を反射する。 「彼は助かりますか?」   切開用のメスを清潔な布で拭うと、フレゴリーは細く小さな目でじっとユリウスを見つめた。 「今まで、毒素が脳や心臓に回らなかっただけでも奇跡的だ。傷から血を抜いて、腫れがうまく引けばいいが……。とにかく、このまま高熱が続けば彼が危険なことに変わりない」
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