第3章 旅編

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  すっかり暗くなったことと、深く被ったフードのせいで、フレゴリーからはアザエルが手を拘束する縄は見えず、何も気付いてはいなようである。 「わかった。いつもすまないな、フレゴリー」   感情が篭らない口調はそのままであったが、氷の男の口から飛び出した労わりの言葉にユリウスは思わずぎょっとした。 「そういう訳にはいかない!」   ユリウスがきっとアザエルを睨みつけると、再び診療所内に戻ろうとした。 「お前はヴォルティーユの者よりは少しは利口だと思っていたが、思い違いだったか?」   ユリウスはぴたりと足を止めた。 「フレゴリーはその辺りの藪医者とは違う。任せておけ。寧ろお前がいると仕事の邪魔だ」   見下した口振りに、ユリウスはかっとして荷馬車の上の男を振り返った。 暗がりの中の魔王の側近は、相変わらず無表情のままだ。   くくくっという堪えた笑いがし、ぱっと視線をやると、フレゴリーは「ごほん」というわざとらしい咳払いを一つして、笑いをうまく飲み込んでいた。 「アザエル様は相変わらずのようだ。おっと……、また口がすぎてしまいましたかな」   フレゴリーは愉快そうに微笑み、その隙をついて診療所の扉をバタリと閉じてしまった。 「あ!」  慌てて扉に駆け寄ってみるが、既に内側から鍵がかけられている。 「あんのくそじじい! 鍵までかけやがって!」   ユリウスはぐしゃぐしゃと髪を掻き乱した。 「おい! あんた、一体どういうつもりだ!? 部下のおれをフェルデン殿下から引き離すなんて!」   つかつかと荷台に歩み寄り、ユリウスはきっと荷台上の碧髪の男を睨みつけた。 無表情の魔王の側近は、興味をなくしたように、ふっとユリウスから視線を逸らした。   何も言わないアザエルに、ユリウスは諦めの溜め息を洩らした。 「でもまあ……、フェルデン殿下を助けてくれたことには礼を言うよ……」   ユリウスは暗がりの中で、ぼそりと小さくそう呟いた。
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