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朱音は水の入った桶の中で濡れた布をぎゅっと絞ると、そっと汗ばんだフェルデンの額の汗を拭ってやる。
「そう、きっと良くなる……」
その行為は、明け方にフェルデンが目を覚ます少し前まで、繰り返し繰り返し続いた。
「陛下、彼が目を覚ますまで傍にいなくていいんですか?」
ルイが心配そうに朱音の顔を覗き込んだ。
「ううん、いいの」
朱音はくるりと診療所の奥から姿を現したフレゴリーを振り返った。
「結局今までついていたのか」
呆れたように言うと、フレゴリーは持っていた薪を足元へと積み上げた。
「お邪魔しました。その……、彼には、わたしがここへ来たということは黙っていて貰えませんか……?」
美しい顔に不安そうな色を見え隠れさせた朱音の姿に、フレゴリーは小さく頷いた。
「何か事情があるんだろう、わかった」
フレゴリーの返事にほっとした表情を浮かべると、朱音はふっとクリストフに向き直った。
「フレゴリー、突然訪ねて来てしまって申し訳なかったですね。わたし達はそろそろお暇します」
お茶でも一杯どうだとフレゴリーが勧めたが、三人は静かに首を横に振ると、音も立てずに診療所を後にしていった。
ユリウスは診療所の脇で毛布に包まり、じっと夜明けを待っていた。
昨晩の出来事の後、おちおち眠りになどつける筈もなかった。
なぜかあの少年王の懸命な姿に負けてしまい、フェルデンの居場所を教えてしまったことに直後はひどく後悔したが、一晩中フェルデンの眠る部屋の明かりが灯っていたことや、時折窓越しに聞こえてくる少年王の懺悔の言葉に、戸惑いを覚えた。
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