第3章 旅編

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「元老院の犬か……」   降りしきる雨の中、ぽたぽたと水滴が碧い髪を滴り、水を含んだその髪は、いつもよりも僅かに落ち着いた色を放つ。   すぐさま別の者がアザエルにブンと刃を振り降ろし、もう一人が渾身の力を込めてユリウスに飛びかかった。 『ガキイン!』   刃と刃のぶつかり合う鋭い音。   ユリウスは覆面の者の刃を剣でもって制していた。   アザエルはさっと身体を反らせると、目にも留まらぬ速さで敵の背後に回りこみ、拘束された手で相手の首を羽交い絞めにした。   首を強く締め付けられ、僅かに緩んだ手から剣を取り上げると、アザエルは慣れた手つきで男の首を?き切った。 「ぐう……!」   男はくぐもった呻き声を洩らし、喉もとから赤黒い血を滴らせながら、バサリと地面にくず折れた。 「くそっ!」   腹を蹴られたもう一人が勢いよくアザエルに刃を向け走り出した。   そのすぐ近くで、ユリウスと覆面の別の男が剣を何度もぶつけ合う激しい音が鳴り響く。   ぬかるんだ足元には先程首を?き切られた男が倒れ、紅い水たまりをつくっていた。   アザエルが奪い取った刃で手首の縄を切り外し、ぱらりと縄がばらけて落ちていく。 それとほぼ同時に、男の向けた切っ先が僅かにアザエルの碧い髪を掠めた。 『シュッ』    一瞬のことであった。   覆面の男が些か眼を見開くと、無言のまま前のめりに砂利の上に豪快に倒れ込んだ。 「ぐああ!!」   ユリウスとやり合っていた男が、額からだらだらと血を滴らせ、バランスを崩して後退していた。 「誰の差し金だ? 狙いはなんだ」   ユリウスは、剣の切っ先を男の首に押しつけ、問い掛けた。 男は何も言わず苦しげに血の流れていない方の目でユリウスを睨み上げた。
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