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ルイが咳き込みながら呼吸を取り戻す。
「陛下、失礼ながらお聞かせください。なぜこのようなところへ来たのです」
感情の篭らないアザエルの言葉は、いつになく冷たさを放っている。
不機嫌な時程この男は、より丁寧な口調で冷たく話をすることを朱音は知っていた。
「元老院があんたをサンタシに渡すまいと刺客を送ったからだよ」
ユリウスは剣を鞘に納めると、少年王の言葉に耳を傾けた。
「でも勘違いしないで。わたしはあんたを助けに来た訳じゃない。フェルデンを無事に国へ送り返す為に来たんだから」
魔王の側近がクロウに忠誠を誓っていることは、傍目から見ても明白だった。
しかし、王たる少年はこの男を信頼しているという訳では無さそうである。
ユリウスはこの二人の不可解な関係についてどうもしっくりこない思いに囚われていた。
「今すぐ城へお帰りください。王が城を空けるとは言語道断。国の混乱を招くおつもりですか」
冷たく射放たれた視線は、ぐっと朱音の言葉を詰まらせた。
また儀式の前と同様の有無を言わせないあの目だった。
「わたしだってなりたくてなったんじゃない……! あんなとこへなんか絶対戻らないから」
唇をきつく結び、朱音は握り締めた拳を震わせながら抗議する。
「そうはいきません。陛下がそう仰るのであれば、わたしも当初の約束を破らざるを得ない」
すっと立ち上がったアザエルは、ゆっくりと小柄の騎士ユリウスを振り返った。
その氷のような目に、ユリウスはごくり空気を飲んだ。
「その者をここで殺してしまいましょうか?」
朱音は咄嗟にアザエルの服を引っ張った。
「なにするつもり!? 何もしないって言ってたじゃない!」
水を滴らせながらふっとアザエルは不適な笑みを浮かべた。
「サンタシの使者を二人とも殺してしまえば、陛下がこのようなところへ足を運ばずともよいではないですか」
これにはルイも驚きを隠せず、
「閣下!」
と、叫び出していた。
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