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「アザエル、わたし、やっぱり行かなきゃ。彼には絶対に顔を合わせないようにするから……」
「止めたところで、陛下は行ってしまわれるのでしょう」
呆れたように溜め息をつくと、アザエルはくるりと背を向けて歩み出した。
「おい! どこへ行く気だ!」
ユリウスが立ち去る碧髪の魔王の側近の後姿に投げかけると、彼は嘲るようにこう返答した。
「案ずるな。わたしは荷馬車に戻る。荷台の荷をこのまま放置するのに気が引ける。お前はお前で好きにすればいい」
荷馬車に積んだ四角い箱が一体何なのか、ユリウスは知っていた。
フェルデンの容態に気をとられ、今まですっかり忘れていた荷の存在に、ユリウスはあっと声を出した。
大切な荷を、確かにこれ以上放っておくことはできない。
かと言って、先程自分に牙を向けてきたこのこの魔王の側近と、一晩中荷馬車で夜を過ごす気にもなれなかった。
恐らく、アザエルは逃げる気はないだろう。
魔術などなくても、あれだけの剣の腕があればその気があれば今までだっていつでも逃げおおせた筈だ。
「わかった……。クロウ陛下、おれが診療所へ案内します」
ユリウスは地面に転がった剣を拾い上げると、そっと静かに鞘に納めた。
一夜にしてとんでもない状況に陥ってしまった帰途。
ユリウスにとって、敵国の王クロウとフェルデンとの関係に、新たな疑問と謎が浮かび上がった夜となった。
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