第3章 旅編

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「ボウレドだと?」   こくりと頷くと、ユリウスはフェルデンに頭を下げた。 「貴方の指示に従わず、すみませんでした。でも、あのままメトーリアに向かっていたら、貴方は死んでいたかもしれない。おれは部下である以前に貴方の友でもあります。貴方を助けるという義務がある、わかってください。」   フェルデンは、解顔して目を閉じた。   サンタシを出立する前、信頼の置ける部下を一人供として連れて行けと、といったディートハルトの言葉の意図がやっと今になってわかった気がした。 今ここにユリウスが供として居てくれることに、心から感謝した。 「いや、おれこそお前に謝らなければ。おれは正気を失っていた……。ありがとう」  怒りを買うとばかり思っていたユリウスだったが、想いの他返ってきた謝罪と感謝の言葉に困惑し、照れた笑みを浮かべた。 「まだ二、三日は安静にしておいてください。本当ならまだ一週間はベッドに縛り付けておきたい程だとフレゴリーは言ってましたが、急ぎの用があると話したら、熱が下がれば特別に許すと言ってくれました」   観念したように、フェルデンは頷いた。 「わかった。お前の言う通りにするよ」 「はい、安心してください。アザエルが荷馬車の荷を見張ってくれています。もう少し眠ってください」   何か言いたげな目を向けるフェルデンだったが、何も言わないまま再び瞼を閉じた。   穏やかな寝息が聞こえ始めると、ユリウスはほっとして丸椅子に腰掛けた。   昨晩、ゴーディアの元老院から送られてきた刺客に襲われたことは、まだフェルデンに話すのはやめておくことにした。 そのことを知れば、この人はきっとまた無理をしてベッドから起き出そうとするに違いない。    “アカネに会った”と言ったフェルデンの言葉が妙にユリウスの心に引っかかった。 昨晩この青年に付きっきりで看病していたのは、誰でもない敵国の王、クロウに他ならなかったからだ。   やっと落ち着きを取り戻しつつあるフェルデンに、その事実を知らせる訳にはいかず、ユリウスは沈黙を守ることに決めていた。
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