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「フェルデン殿下、貴方にとって、そのアカネという人は本当に大切な人だったんですね。いつも冷静な貴方の正気をも失わせる程に……」
ボウレドの街外れにある小さな店で、朱音は出されたスープとパンを口にしていた。
今はクリストフは買出しに行って二人の傍を離れており、テーブルにはルイと朱音の二人きりであった。
「陛下、今更こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、僕はやっぱりあのクリストフという男が信用できません。それに、アザエル閣下も言っていたように、城をあまり長く空けるのは僕も良くないと思うんです……」
言いにくそうに俯いたままぼそぼそと話すルイの話を全く気にしていない様子で、朱音は明るい口調で言った。
「ルイ、このスープ飲んでみなよ。なかなかいけるよ」
すすっていたスープの皿をルイに差し出すと、にこりと微笑んだ。
「いえ、僕は結構です……。それより、そろそろ城へ戻りませんか……?」
朱音は相変わらず気に留めた様子もないまま、パンを頬張った。
「なんでかなあ、城の料理って美味しい筈なんだけど、こうしてお城の外で食べる質素な食べ物の方が美味しく感じるんだよね、不思議だよね」
朱音はもぐもぐと口を動かしながら、ルイにパンも差し出した。
ふるふると首を横に振られて残念そうな顔をしながらも、朱音はぱくぱくと残りのパンも平らげてしまう。
「それってさ、どうしてか分かる?」
じっとルイの顔を見つめた後、朱音は少し悲しげに目を伏せた。
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