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ルイははっとして顔を上げた。
「あのお城にはわたしの居場所がないからだよ。ここにいるわたしはクロウであって、クロウじゃない。そんな誰でもない国王が、力の無い人間がお城に戻ったところで、何の役に立つと思う? きっとただの飾りでしかないんだよ」
ルイは何も理解できていなかった自分に気付き、恥じ入った。
目の前の年若き国王は、未だ大きな苦しみを抱えていた。
それも、その苦しみを決して外へと出さないまま。
「陛下……、無神経なことを言ってしまいました。お許しください」
ルイは椅子から立ち上がると、テーブルに頭がつく程に腰を折った。
「こらこら、ルイったら! こんなところでそんなことしないでってば。それに、陛下はなしだよ。誰かに聞かれでもしたらどうするつもり?」
慌てて立ち上がり、朱音は頭を下げるルイを制止させながら小声で言った。
「は、はい……! 申し訳ありません……!」
あわあわと狼狽するルイをなんとか椅子に押し戻すと、朱音はくすりと微笑んだ。
「お城の外では陛下じゃなくて朱音って呼んで? ね?」
戸惑ったようにこくりと頷くと、ルイは再び俯いてしまった。
「ルイの心配はわかってるつもりだよ。わたしがお城を空けていることが他の国にばれたら、戦争が起こることだってありえるんでしょう? でもさ、わたしも自分が一体誰なのかわかんないままゴーディアの王になんてなれない……。あともう少し、あともう少しだけわたしの旅に付き合ってくれないかな?」
先程、王都マルサスから来た商人が店のカウンターで主人と話している声が二人の耳にも入っていた。
しかし、国王クロウが城を抜け出したことは話題には上がっておらず、それよりも先日公表された先王である魔王ルシファーの死去で持ち切りだった。
ここの主人はなかなか読みが深く、クロウ陛下が即位するよりも以前に、実はルシファー王は既に亡くなっていたんじゃないかという予想まで立てていた。
商人は、強大な魔力を持ったルシファー王がこの世を去ってしまったことで混乱が起きなくて済んでいるのは、魔力をを受け継ぐクロウ陛下がいるからに他ならないな、と得意げに話をしていた。
そんな中でもしもクロウ王が不在だと知れたら、国内は間違い無く混乱するだろう。
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