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元老院達は今のところうまくその事実を隠し通しているようだ。
恐らく慌てた元老院達は、アザエル暗殺の為の刺客のみならず、クロウ国王を早急に連れ戻す為の人員を既に各地へと放っている筈だ。
「水を……、水のおかわりを貰ってきますね」
ルイは空いたグラスを手に、テーブルを離れた。
こうしている間にも、この街ボウレドにもクロウ王を探す使者が潜んでいるかもしれない。
そう考えると、ルイはこのように自由に旅を続けられるのも残り僅かな時間のようにも思えた。
(どうせ連れ戻されるのなら、せめて、陛下の気が済むように……)
テーブルの上に載った残った飲みかけのスープを見つめたまま、朱音ははあと溜息を漏らした。
ルイが怒るのも当然だった。
相談も無く勝手に城の外へと連れ出してきた上に、あちこち連れまわした挙句、ゴーディアを危険に晒している。
友達だと都合のいいことばかり言って、彼には迷惑を掛け通しだった。
「どうした? うかない顔して」
突如掛けられた見知らぬ男の声に驚いて、朱音はびっくりして俯けていた顔を上げた。
いつの間にかルイが先程腰掛けていた席に見知らぬ青年が座り、朱音の顔を覗き込んでいる。
深く被った紐を編んだような風変わりの帽子に、健康的な褐色の肌。
両耳には大きな石のついた飾りをしていて、燃えるような紅い眼はとても印象的だった。
「たまげた! あんた、相当の美人だな!」
「だ、誰……?」
警戒心の強い口調で、朱音は訊ねた。
「俺か? 俺はエフ! メトーリアの港で停泊中の船乗りだ。あんたは?」
悪意の無い笑みでニカリと笑うと、突然手を差し出してきた。
どうやら握手を求めているらしい。
「朱音です……。あの、連れがいますので」
悪い青年のようには見えなかったが、今の朱音はどうもこの青年と和気藹々と会話をする気にはなれそうになかった為、差し出された手を握り返すことはしなかった。
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