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「クイックル!!」
窓の外でぱたぱたと羽ばたく白鳩に歓喜の声を上げ、朱音は慌てて窓を開けて小さな友を船の客室に招き入れた。
「一体どこに行ってたの? 心配してたんだよ」
ちょんと朱音の肩に飛び乗った白鳩の首を優しく指で撫でてやると、ホロホロと気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「彼女には、魔城での様子を見てくるようお願いしていたんですよ」
この白い友達は、三人がボウレドに滞在している間中一度も朱音の前に姿を現してはいなかった。
クリストフが懐から麻の袋を取り出すと、中から小さな実を手の平に取り出し載せた。それを見たクイックルは、目を輝かせてその手にパサパサと飛び乗った。
「その実はなに?」
好奇心旺盛な目で、朱音はベッドから立ち上がりクリストフの元へと歩み寄ると、クリストフの手にある実の一つを摘んでまじまじと見つめる。
「リガルトナッツですよ。彼女の大好物なんです。酒のあてとしてもよく出されるんですよ。」
細長く丸い形をした小麦色のナッツを、クイックルは器用に小さな嘴を使って啄ばんでいる。
「まさか、この世界でリガルトナッツを知らない人がいるとは知りませんでした。魔城ではこのような俗世の食べ物が出されないのですか?」
ぎくりとしてルイが慌ててフォローを挟む。
「陛下はほんの少し以前にこのゴーディアの地に降臨されたばかりです。知らない食べ物があったってそう不思議はありません」
うまく逃げ切ったつもりでいルイだったが、次の瞬間思わず言葉を噤んでしまった。
「そのことなんですが、以前から少し気になっていたんです。クロウ陛下が降臨されたということはこの世界の誰もが既に知っています。けれど、一体どこから降臨されたんです?」
硬直して顔を引きつらせるルイに気付いてか気付かないでか、クリストフは手の平のナッツを全て食べ終えてしまったクイックルを静かにテーブルの上に降ろすと、言葉を続けた。
「それに、わたしにはどうしてか貴方がただの少女に見えてしまう」
朱音に向き直ったクリストフから、朱音はぱっと顔を背けた。
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