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にこりと微笑むと、クリストフは羽をばたつかせるクイックルに手を伸ばした。
クイックルは大人しくその手にちょこんと乗ると、ぱちくりと数回瞬きをした。
「待たせて悪かったね」
白鳩に優しく言葉を掛けると、クリストフは客室の扉へと向かった。
いつものごとく、クイックルから偵察の情報を受け取りにいくのだ。
一体この言葉を話せない鳩からどうやって情報を得るのかは謎だったが、クリストフは決してその際に朱音やルイを立ち合わせようとはしなかった。
「そうだ、言い忘れていたけれど、この部屋からは無闇に出ないこと。いくら変装しているとは言え、アカネさんの神がかった美しさは目立ちすぎる。半月程退屈すると思いますが、辛抱してください」
部屋から出しなにクリストフは好奇心旺盛な朱音に釘を刺しておいた。放って置くと、あちこち船中を歩き回り兼ねない。
「わかってるってば」
口を尖らせながら、朱音は締め付ける息苦しいドレスの胸を擦った。
ルイ自身クリストフという男を信用することに抵抗はあるが、この男が確かに朱音の性質をよく理解してることだけは認めた。
「それと……。友の手助けをするのに理由なんて必要なんでしょうか? わたしは、ここにいるのは“クロウ陛下”ではなく、“アカネさん”だと認識していますが……」
パタリと閉じられたドアの手前でポツリと残された、美しいドレスに身を包んだ朱音。そしてその従者ルイは、目を見合わせたまましばし静止していた。
二人は直感的に、やはりあの男は何か勘付いているのでは、っとそう思ったのである。
揺れる船内。
積荷を入れた船室に一人、フェルデンは静かに佇んでいた。
出航してから最初の夜がきていた。
比較的に波は安定し、揺れも左程酷くはない。
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