第3章 旅編

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【27話 暗闇の中で】 「いいですか、これから話すことは決して穏やかではありませんよ」   そう言ってから話し始めたクリストフの言葉は、思ったよりも朱音に大きな衝撃を与えなかった。 「クロウ王が魔城を抜け出したことにより、確かに城内に混乱が生じています。しかし、その事実は一部の者にしか知らされておらず、王は無期限の瞑想に入ったと誤魔化されているそうです。しかし、クロウ王不在をあくまで隠し通そうという考えの元老院の弱みに付け込み、現在ゴーディアを取り仕切っているのは実際のところヘロルド・ケルフェンシュタイナーと。名ばかりだったヘロルド・ケルフェンシュタイナーの地位と元老院の地位は逆転し、あの男は次々と法令を自分の有利なものへと変えようと目論んでいるようです」    このことを予想していなかったと言えば嘘になる。   しかし、まさかあのヘロルドがこんなにも短期間で王に取って代わるなどと考えが及んでいなかった。 自分が無断で城を抜け出したことにより、他の人達に迷惑がかかっていることや、国を危険に晒していることを思うと多少なりとも申し訳ない気持ちは起こった。   かと言って、自分が何者かもわからないまま、大国を背負える度胸も諦めも、今の朱音には無かった。   クロウの身体には戸惑うこともあるが、随分慣れてはきている。 以前のように違和感を覚えることはなくなった。   しかし、戻ると言われたクロウの嘗ての記憶は、一向に戻る気配は無く、それと同様、肉体に眠る筈の魔力さえ微塵も感じたことはない。   正直なところ、このままずっと中身が朱音のまま時が過ぎていくのではないかという不安も拭い去れなかった。 それに、勿論のこと元の世界に戻りたいという願いは捨てた訳では無かった。 目を閉じると、今までのことが全て悪い夢で、目が覚めるとただの中学生だった朱音の日常が訪れるんじゃないかという淡い幻想を抱くこともしばしば。   しかし、二度目にアザエルにこのレイシアに連れ去られてきた際鏡の洞窟で感じた、ブツリと元の世界と切り離されたような感覚は今でも妙にリアルに朱音の記憶の中に蘇る。 時折思い出しては不安と焦燥に駆られて胸が張り裂けそうになる為、なるたけ考えないようにしていた。
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