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あれこれと思いを巡らすうちに、夜がすっかり更け、深夜にベッドを抜け出すという日がこのところ毎晩のように続いている。
リーベル号に乗船してからというもの、もう一週間という日が経過していた。
この船唯一の客室で寝泊りしている朱音達だったが、片時も離れようとはしないルイとは違い、なぜかクリストフは時折二人の前からふと姿を消すことがあった。
この晩もクリストフの簡易ベッドは蛻の殻で、となりのベッドですやすやと寝息を立てているルイはそのことに気付いてはいないようだった。
“あちこち船内を歩き回らないように”
っと、きつく釘を刺されていた朱音だったが、こうも目が冴えてしまうと、なかなか寝付けないもの。
決まって目が覚めたときにベッドを空にしているクリストフの不在をいいことに、甲板に出て夜風に当たる、というのが密かな習慣になりつつあった。
ルイを起こさないようにこっそり抜け出した客室。
薄手の寝具はクリストフが調達してきた洒落たデザインのネグリジェだ。
海の上は風が冷たく、朱音は薄紅色のガウンを着込むと、甲板の船尾に立って、じっと暗い海の景色を眺めた。
海は嫌いじゃなかった。
元の世界でも、何度となく夏には海を訪れ、南国でのシュノーケリングに憧れたりしていたものだ。
志望校に合格したら、親友達と晴れて卒業旅行で沖縄に行く計画まで立てていた。
それがどうだ、もうこの世界に来てからどれくらい日が過ぎただろうか。
今頃、受験日が数日に迫っているかもしれない。
いや、ひょっとしてもう過ぎてしまったかも……。
そんなことを考えながら、朱音は冷えた身体でぶるっと一つ身震いすると、ふるふるとそんな考えを振り切った。
『バタン』
扉の閉まる音が聞こえ、朱音はそっと物影から覗き見た。
長身の身体。
ふわりとした金の髪は夜の船上でもすぐに誰のものかはわかった。
(フェルデン……!)
また会えた、という喜びで思わず朱音は口を両の手で覆った。
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