第3章 旅編

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  ボウレドで最後に見た彼の姿は、フレゴリーの診療所内の寝台の上で、熱に浮かされ苦しんでいるものだった。 傷の状態は素人の朱音から見ても相当に悪いということはすぐに分かった。 そして、そんな彼を見ていると、このままこの青年がいなくなってしまうのでは、というとてつもない恐怖を感じた。 そして朱音の抜け殻を目にしてしまったフェルデン自身は、きっと同じような思いを抱き、絶望したに違いない。   鏡の洞窟で彼を裏切り、見捨て、こういう結果を招いたのは紛れも無い朱音自身だということを、あの夜は身を持って思い知らされた。   しかし、こうして離れた場所からでも、彼の健在な様子を拝み見ることができることが何より幸せなことと思えた。 まだ完治したという訳ではなさそうだが、とりあえずこうして当初の目的通り彼がサンタシへと帰国するのを見守ることのできる現状に、朱音は深く感謝した。   ふっと口元を緩ませると、朱音は身体が冷え切ってしまう前にと客室へと戻る。 (いつもあの部屋で何してるんだろ……)   フェルデンを見かけた最初の晩は驚きと興奮で何も考えてはいなかったが、毎夜、同じ時間帯にあの部屋から出てくるフェルデンの姿を見るうちに、朱音にある疑問が浮かび上がってきた。  見たところ、物置き部屋のようにも思えるあの部屋で、フェルデンは一体何をしているのだろうか、ということばかりが気になり始めたのだ。 気になって確認してみたい気はあるものの、日中はクリストフが部屋から出ることを許してはくれないだろう。 (なら、夜にこっそり行っちゃえばいいんだ!)   クリストフはきっと朱音のこういったところを恐れていたのだろう。 次の晩、朱音は連日のように深夜に起き出し、こっそりと例の部屋に潜り込んでいた。 暗闇の中、じっと息を潜めフェルデンが現れるのを待つ。 「時化込んできやがった。こりゃ、一雨くるぞ」   今晩はいつもよりも波が高く、星は雲で一つも見えてはいない。
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