第1章 サンタシ編

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  痛みをこらえながら、朱音は辺りを見回して身を隠せそうな場所がないかを必死に探した。   目に入ってきたのは、巨大な幹。 樹齢何百年もの大木である。   咄嗟にその影に身体を滑り込ませると、息の上がってしまった口を両の手で覆い、男達が行き過ぎるのをじっと待った。 「確かこの辺りに逃げ込んだぞ」   低い男の声がすぐ近くまで迫っている。 (お願い、通り過ぎて……!)   朱音の願いむなしく、まだ別の男の声が聞こえた。 「見ろ、血だ……」   身体の大きな男が地面を明かりで照らすと、地面を濡らす血液をじっと目で追った。   点々とつづく血痕は、巨大な木まで続いていた。   ゆっくりと近づく数人の男達の足音。 (なんでわたしがこんな目にあわなきゃなんないの?)   朱音は恐怖で顔を真っ青にしながら、震える手で口を覆って静かに時を待った。   ピタリと止まった足音。   張り詰めた空気にきつく閉じた目をおそるおそる開いて見てみる。 「驚いた……。人間の女の子だ」  朱音の目の前に立っていたのは、身長一八〇を優に超える、金色の短い髪の青年騎士であった。   恐怖のあまりがたがたと肩を震わせて潤んだ瞳で見上げる少女の姿を見て、青年は持っていた剣を鞘に収めた そして青年は少女を驚かさないようにそっと屈んで目線を合わせると安堵の表情を浮かべた。 「殿下、これは一体どういうことでしょう」   青年のすぐ後ろで剣を鞘に収めた小柄な騎士が、困惑の表情を浮かべながら言った。
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