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しかし、今は反省や後悔をしている場合ではない。
この揺れだ、華奢な少年の姿の朱音が一人で出歩いていたならば、船外へと放り出されてしまってもおかしくはない。
ましてや、今はなんの魔力も持ち合わせていないのである。
刻一刻を争う事態である。
二人は壁を伝うようにして、なんとか揺れに立ち向かい、船を捜索し始めた。
船内はほとんどの人員が外に出払ってしまっていて、人気は少ない。
「どうしました!? 危険だから部屋に戻っていてください!!」
すれ違い様に船乗りの一人がクリストフとルイに声を掛けた。
「連れを捜しているんです。見ませんでしたか?」
男は息を切らし、両手に持ったバケツを担ぎなおした。
「噂の美人の子ですか? さて、中では見てませんけど……」
申し訳無さそうに頭をペコリと下げると、男は船外へと飛び出して行った。
「船内に残っていないとなると……、考えたくは無いですが外にいるとしか……」
クリストフは頭痛でもするかのように、眉間を人差し指でグリグリと押さえる仕草をした。
「そんな……!」
真っ青になって、ルイがへたりとその場に座り込んだ。
「まだ諦めるには早いですよ。アカネさんはわたしの見込んだところ、なかなか骨のある方です、きっと無事でいる筈です」
クリストフの励ましに、ルイはもう一度足を踏ん張って立ち上がった。
「いいですか、甲板に出たらとりあえず、何か固定できるものにこの縄を結びつけるんです」
クリストフはルイの腰に数回縄を巻き付けると、もう片方の端を本人に手渡した。
「分かりました。でも……、あなたはどうするんです?」
命綱となるだろう縄は一人分しか見当たらず、クリストフは何もつけずに船外に出るつもりらしい。
「私は無くてもきっと何とかなりますよ」
ルイが止める間もなく、クリストフは甲板へ出る為の扉を勢いよく開いた。
途端、凄まじい風とバケツの水を頭からひっくり返したような雨が吹き込んできた。
「うあっ……っぷ」
開け放たれた扉は船が揺れる旅ギイギイと音を立てている。
そこにはもう、クリストフの姿は見当たらなかった。
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