第3章 旅編

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  更に悪いことに、今晩も予想通り、フェルデンはこの部屋へとやって来てしまっていたのだった。   甲板が騒がしくなり、出るに出られなくなってしまった朱音が荷の影に座ってじっと息を潜めて待っていたところ、フェルデンが通例通り蝋燭を片手に部屋へと入ってきたのだ。   彼に見つからないように、と身を小さくして蹲っていたのだが、間髪入れずに船が突然大きく揺さぶられ始めたのだ。 当然のことながら、不意を食らった朱音自身も船室の壁に叩きつけられる格好になり、積荷の多くは崩れ、樽は床面をごろごろと勢いよく転がった。 「あっ!」   朱音は咄嗟に出てしまった声を止めることはできなかった。 「……誰かいるのか……?」   この揺れで、フェルデンは蝋燭を落としてしまったようで部屋には再び暗闇が訪れた。   しかし、ひどい揺れはおさまることはなく、一層強さを増している。   はっとして口を紡ぐが、フェルデンは暗闇の中に潜む誰かの存在に気付いていた。 「なぜ返事をしない……? 誰だ!?」   心の内で祖父の言っていたことを思い出し、こういう状況になってしまったことへの後悔を繰り替えしながら、無言でじっと揺れに堪えた。 (ああ、私のバカバカ! なんでお爺ちゃんの言ってたことをもっと早くに思い出さなかったの!? っていうか、そもそも、なんでフェルデンがここに来る理由を知りたいなんて思ったりしたの!?)   しかし、朱音はもっと肝心なことに気付かなかった。 この部屋には多くの荷が積まれていることを。 いくらバランス良く積まれた荷でも、これ程の揺れではあまり意味を成していないことも。 「!!!」   とびきりの大きな揺れが起きた。   一瞬船が海面を離れ、宙を舞ったような浮遊感に見舞われたその直後、バラバラと詰まれた荷が朱音目がけて崩れ落ちてきたのだ。 身動きのとれない朱音はただ身を固くして衝撃に備えることしかできなかった。   しかし、訪れる筈の衝撃はいつまで経っても訪れなかった。   ただ、荷が床面に崩れた音が聞こえただけ。
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