第3章 旅編

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「私はアカネさんの友人です。今はそれだけしか申し上げられない」   朱音を担いだまま、ゆっくりと部屋から脱出していくクリストフの背中に、フェルデンは強く問い掛けた。 「なぜだ! 」   クリストフは小さく潰いた。 「それは、彼女が貴方に会いたいと願わないからです。貴方は悲しみのあまり、あまりに盲目になりすぎている。もっと心の目で物事を見てみてください。そうすれば……真実が自ずと見えてくる筈です」 二人が立ち去った後、フェルデンは揺れる船室で、しばらく頭を抱えて座り込んでいた。   またずきりと肩の傷が痛み始めた。さっき崩れた荷を身体で受け止めた際にまたぶつけたようだった。 「アカネ……、一体どういうことなんだ……」
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