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「さ、また船が傾きますよ。わたしが合図したらわたしから手を離してルイの手に!」
ミシミシっと軋みながら船が逆方向へと傾き始めた。
「さ、準備してください」
朱音はこくりと頷き、クリストフから手を離す準備をする。
「今です!!」
ぐいと背中を押された瞬間、朱音は思い切って踏み切り、ルイの手をがっしりと掴んだ。
「陛下!」
ルイはしっかりと両の手で朱音の腕を掴み、ぐいとマストの辺りへと引き上げてくれた。
しかし、安心するにはまだ早い。
クリストフはまだ今にも海に飲まれかけている。
彼を船の甲板に繋ぎ留めているのは、手首に巻きつけた縄だけだ。
彼の表情が相当辛いことを物語っている。
容赦なく打ち寄せる波と海水で、クリストフはひどく疲労していた。
「クリストフ! 貴方、風で安全な場所まで移動するとか、何か方法はないんですか!?」
ルイは、クリストフに向けて叫んだ。
しかし、クリストフから返ってきた返事は絶望的なものだった。
「馬鹿を言わないでください。こんな場所で風を起こしてみてください、船長の腕でなんとか浮き続けているこの船は、あっけなく転覆するでしょうね」
呆れたことに、クリストフはこんな時でさえ可笑しそうに微笑んでいた。
「何を悠長にしているんです!? なんでもいいですから、とにかくなんとかしてこっちに来てください!」
じっと微笑んだままクリストフはルイと朱音を見つめて言った。
「いいえ、先にお二人は船内へ戻っていてください。わたしは必ず後から戻りますから」
朱音ははっとして叫んだ。
「ダメだよ! クリストフさん、貴方を置いていけない!」
「いいえ、早く船内に戻ってください。早く!」
今まで微笑みさえ見せていたクリストフは、なぜか急に焦って二人を追い立てるようにして言った。
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