468人が本棚に入れています
本棚に追加
次の瞬間、朱音はクリストフが一体何を言いたかったのかを瞬時に悟った。
『ミシミシミシッ』
二人の命綱でもある縄を括り付けてあるマストが大きな音を立てて軋み始めたのだ。
「マストがもう持ちません! 巻き込まれる前に早く縄を切り離して、船内へ!」
ルイは懐から果物用のナイフを取り出すと、縄を切り離しにかかる。
「ルイ、待って? このままだと、倒れたマストがクリストフさんを直撃してしまうかもしれない!」
朱音の気持ちは百も承知していたが、ルイには我主を危機から救い出す為にはこの言葉は聞こえない振りをするしかなかった。
『ミシ……ミシミシ……』
マストがゆっくりと傾き始める。
傾いた先にはクリストフがまだ辛うじて手首に巻き付けた縄で船上に留まっていた。
「マストが倒れるぞー!!」
どこかで船乗りが叫んでいる。
「ルイ! クリストフさんが……! ルイ!」
悲痛な朱音の声を無視して、ルイは縄をナイフで完全に切り離した。
途端、マストはスピードをあげクリストフ目がけてぐしゃりと倒れこんでいった。
「うそっ! うそでしょ、クリストフさん……!」
真っ青な顔で朱音はマストが倒れていく瞬間を見つめ続けた。
巨大な折れたマストの下敷きになっていたとしたら、クリストフは無事である筈がない。
折れたマストは、次に訪れた波に攫われ、黒い海へと流されていく。
「彼はきっと大丈夫です。陛下も知っているでしょ? 彼は風を操れるんですから。陛下、彼が言ったように、船内へ戻りましょう」
ルイはわざと冷静を装い、パニックを起こしかけている朱音の腕を引いた。
命綱を失った自分達も、決していい状況とは言い難いことをよく理解していたからだ。
「ルイ、あれを見て!」
最初のコメントを投稿しよう!