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そこは、船上でもなく、海上でもない、何もない岩の上。
ごてごてと尖った岩の上で擦りむいたのか、手足はありこち擦り傷だらけだ。
荒れた波のはまだおさまってはいないようで、空には暗雲が立ち込めたままだ。
周囲は海に囲まれ、何も見えない。
流された朱音を目の前にいるアザエルが救出し、この岩場まで運んでくれたようであった。
「アザエル……」
朱音は混乱していた。
先程見た記憶の断片のアザエルが、クロウにとってひどく懐かしくそして安心できる存在だった気がした。
クロウの記憶が自分のものなのか、それとも彼のものなのか、境目がはっきりとせず、まるで朱音自身がアザエルにそういった感情を抱いているようにも感じた。
朱音はぬるりとぬめった様な奇妙な手の平の感覚に違和感を覚え、何気なく手の平を見下ろした。
「な……に……?」
まだ夜が明けるまでには間があり、暗い中だったが、朱音はそれの正体が何かを瞬間的に察知した。
「血……?」
暗闇の中でも分かる程てらてらと朱音の手にべったりと付着した血液は、朱音のものではないことは明らかだった。
はっとして朱音はアザエルの服を掴んで引き寄せる。
「どこか怪我してるの……!?」
掴んだ服自体が既に多量の血液が染み渡っていることに気付き、朱音は驚いてアザエルの顔をじっと見つめた。
「陛下、わたしはもう長くありません。陛下がわたしを憎んでおられるのは承知で言います。陛下、緋の眼の男が陛下を狙っています。奴に捕まる前にあの風使いとルイを連れて身をお隠し下さい……」
アザエルは意識が朦朧としているのか、座ったまま何度も後ろに倒れそうになるのを何とか耐え忍んでいるようだった。
「アザエル……? 貴方がそう簡単に死ぬ訳ないよ、そうでしょ?」
朱音はアザエルの服の袖をぎゅっと掴み、碧い眼を見据えた。
しかし、辛うじて開いている綺麗な碧い目は、見る間に輝きを失いつつあった。
「奴……は、野蛮な賊です……。欲しい物を手に入れる為には……、ど……んな手でも使う……。 クロウ陛下……、ご無事で……」
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