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固い岩の上にトサリと横倒れになり、アザエルは動かなくなった。
「アザエル? 嘘……。約束したじゃない! いつでもわたしの傍に居るって、貴方そう言った!!」
あれ程憎くて仕方無かった魔王の側近が、朱音の全てを奪ってしまったあの憎くて憎くて仕方の無かったアザエルが、居なくなるなんて清々する筈だったのに、なぜか朱音は流れ出でる涙の雫を止めることができなかった。
これがクロウの感情なのか、朱音の感情なのかはよくはわからないが、アザエルはどちらにしても今の朱音にとって、とても大きな存在だったのだ。
「一人にしないで! アザエル! 戻って!」
「その人を助けたいですか?」
ふわりと岩の上に舞い降りた風とともに、落ち着いた声が降りてきた。
横たわるアザエルに縋り付く朱音のすぐ足元に、クリストフが立っていた。
「……クリストフさん……?」
困ったように微笑むと、クリストフは口を開いた。
「すみませんでした、すぐに助けに行けずに……。船から離れないことには、風を無闇に使うこともできませんでしたので。風と船は相性が悪いのですよ、ほら、強風は船を転覆させてしまうでしょう?」
肩を竦めてクリストフがふっとアザエルに視線を落とした。
「それよりも、今ならまだ彼を救う方法はあります」
朱音は無意識に立ち上がり、クリストフの腕を掴んでいた。
「本当!? どうすればいいの??」
クリストフは、朱音の目を見つめたまま言葉を続けた。
「彼の腕の手枷を外すのです。幸いここは水を操る彼が魔力を最大限生かせる場所。周囲を全て水に囲まれています。手枷さえ外せれば、後はなんとかなる筈です」
クリストフがなぜこんなことまで知っているのかという疑問はあったが、朱音は今は彼の言うことを信じることしかできなかった。
「わかった。でも、どうやって……?」
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