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朱音は、アザエルの手首についた手枷の存在を確かめると、なんとか取り外せないものかと両手で引っ張ったり押したり躍起になる。
「その手枷は力で外すことはできません。その手枷を外すことができるのは、この世でただ一つ。魔王ルシファーの魔力のみ」
その言葉の意味を理解できず、朱音はクリストフの焦げ茶の瞳を振り返った。
「そして、今はその血を受け継ぐ貴方の魔力です」
朱音はふるふると首を横に振った。
「ダメだよ、わたしには魔力なんて無い! 手枷は外せない……!」
絶望して、へたりと朱音はアザエルのすぐ傍で座り込むと、ぱたぱたと涙を溢した。
「アカネさん、貴女ならきっとできます。彼の鼓動が完全に止まってしまえば、それも叶わなくなってしまいます。自分の力を信じて……」
クリストフは静かに腰を下ろし、そっと朱音の手に自らの手を添えた。
朱音はぎゅっと瞳を閉じると、もう一度アザエルの手枷に触れる。
「さ、手の平に気持ちを集中させてください」
朱音は手枷に触れた手に意識を集中させるが、何も変化は起こらない。
見る間にアザエルの白い顔から血の気が引いていく。
「ダメだよ、やっぱりわたしにはできない」
閉じた目尻から涙を浮かべながら、朱音は手に賢明に力を込める。
「アカネさん、自分を疑っていてはいけませんよ。魔力は自然を味方につけることのできる力です。自分を疑っていては、自然の力が共鳴することはできません」
クリストフが静かに諭す。
「あなたは万物と共鳴することのできる程の魔力を秘めています。自分自身を信じてください」
朱音は手枷に触れていた手から全ての力を抜いた。
ふと朱音の頭に尊敬する父の道着姿の背中が横切った。
どんなに冬の寒い朝でも、父は道着一枚でよく道場の真ん中で座禅を組んでいたものだった。
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