第1章 サンタシ編

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【3話 異なる世界】 深いまどろみ中で、朱音は懸命に瞼を持ち上げようようとする。 (眠い……)   ひどい眠気がする。昨日の奇妙な体験で精神的に余程疲れていたらしい。 いや、あれはひょっとすると夢だったのかもしれない。 受験を控えた十五歳の朱音にとっては、現実逃避という密かな自己防衛に走り始めていたのかもしれない。 「ん……」   重い瞼を持ち上げると、朱音は僅かに数回目を瞬かせた。   ふかふかのベッド。 見慣れぬ部屋の天井。   驚きで飛び起きると、部屋の周囲をぐるりと見渡してみた。   天井と思っていたのは実は天蓋付きのベッドで、部屋の中はフランス王朝に登場しそうなテーブルが一つ。 壁際には恐ろしく光沢のある引き出し付きの棚が置いてあり、そのすぐ上には巨大な絵画が吊るされていた。 (嘘……、あれは夢じゃなかったの?)   信じられない光景に、すっかり眠気が吹き飛んでしまった頭で、ベッドからおそるおそる這い出すと朱音はベッドから足を降ろす。   すると包帯に巻かれた自らの足が目に飛び込んできた。 (そうだ、わたし、足を怪我して……)   よく見ると、朱音が身につけていた泥だらけのTシャツとハーフパンツは、いつのまにかゆったりとしたワンピース型の白い服に着替えさせられている。
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