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「……それに……、ロジャー……」
突然ピタリと口を噤んでしまったアルノの異変に気付き、フェルデンは波間から目を戻した。
アルノの厚みのある丸い肩が、小刻みに震えている。
「アルノ……?」
突然アルノはきつく握り締めた拳を手すりに数度叩きつけた。
「わたしは友人の先ある未来までも奪ってしまった……!」
くうっと喉を鳴らしながら、アルノは手すりに項垂れるような格好で頭を抱え込んだ。
フェルデンは震えるアルノの背に触れようとするが、はっとしてその手を止めた。
「そのロジャーという友人、細身でハットを被った紳士か……?」
アルノが俯いたままこくりと一つ首肯した。
「その男、死んだのか……?」
フェルデンはその大人の男に見覚えがあった。
日中、何度か船で擦れ違ったことがあったのだ。
船乗りにしてはあまりにきちんとした紳士的な服装で、いつも擦れ違い様に優雅にハットを外し礼儀正しく会釈をするものだから、彼が何者なのか少し気になっていたのだ。
それに、その男と一緒に乗船しているという少女の噂もちらりと耳にはしていた。
「ロジャーが折れたマストの巻き沿いを食って、海へ流されるのを見た者がいるんです。あの波の高さです、おそらくは……」
アルノは目を真っ赤に充血させて左の手の甲でごしごしと両の目を擦った。
「そうか……。今更だが、彼はどうしてこの船に……?」
昨晩、あの暗い船室に潜んでいた死んだ筈の朱音と思しき気配と、その朱音をよく見知っている友人と名乗る男の存在を思い出していた。
なんとなく、昨晩の男とロジャーという名の男が同一人物のように思えて仕方が無かったのだ。
アルノは、悲しげな表情で言った。
「彼は駆け落ちの途中だったんです。詳しい事情はわかりませんが、一緒にいた女性はどこかの王族の姫だったようです。彼は大陸を渡って身を隠すと言っていました」
フェルデンは混乱していた。
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