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「ここにいた客人は……、その王族の姫という人はどこだ……?」
その瞬間、ふっとアルノが床に目を伏せった。
「アルノ、彼女はどこに……」
「昨晩、従者の少年とともに海に流されるのを見た者がおります……」
シーツを握り締めている手がわなわなと震えた。
ほんの少し垣間見た一筋の光が、僅かに手の指先を掠め消え去っていくような絶望感に見舞われた。
「こんなつもりではなかったんです……。もう少しわたしが注意を払っていれば……。本当に申し訳ありませんでした」
アルノはがくりと肩を落とし、簡易ベッドにくず折れるように座り込んだ。
握り締めていたシーツを離すと、フェルデンは息苦しい程の思いを感じた。
「貴方のせいじゃない……」
そうは言うものの、今度こそ本当に失ってしまったかもしれない、そんな恐怖と盲目だった自分への怒りが腹の底から沸きあがってくるようで、フェルデンは悔しさと憤りで唇を血が出る程強く噛み締めた。
あの嵐は必然だった。
きっと誰にも避けようのないものだったのだろう。
しかし、あともう少し早く、朱音の存在に気付いていたならば、彼女を最悪の事態から救うことができたかもしれない、そう考えると愚かだった自分を戒めてやりたいと強く思った。
「うう・・・」
潮水を多量に飲んでしまったせいだろうか、口の中や喉がひりひりと痛む。
「おっ、気がついたか! 水飲むか?」
ルイはまだ覚醒しきっていないぼんやりとした頭で、差し出された木の器を受け取ると、有難くその水に口をつけた。
水を全て飲み終えたところで、ルイは自分が今いる状況を一つずつ分析し始めた。
日が昇っていることを考えると、夜が明けていることは明らかだった。
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