468人が本棚に入れています
本棚に追加
ルイは、
“お前を世話役に命じる”
と、アザエルに初めて告げられたときのことを今でも鮮明に覚えている。
天蓋付きのベッドで安らかに眠るクロウ王の姿は、まるで魔王ルシファーを生き写したかのように美しく、それでいて一切の禍々しさは感じられなかった。
そんなクロウ王だったからこそ、ルイは強く惹きつけられていたのかもしれない。
“アザエルがいない今、ルイはわたしの側近です”
何も出来ず、近くに仕えることしかできないルイにも関わらず、クロウはヘロルドにはっきりとそう言い切ってくれた。
その言葉に驚き、そして感激したこと。
しかしその直後、
“ルイはわたしの友達でしょ? だから側近なんて思ってないよ“
と、続けられた言葉にルイは呼吸さえするのを忘れていた。
友達という言葉を知らずに生きてきたルイにとって、クロウの言ったことはどんな魔力よりも強い力を持っていた。
大切な主であること以前に、ルイは初めて友としてこの人の近くで支えになりたいと心から感じたのだ。
「そう落ち込むなって……! まずは自分が助かった幸運を喜ぶべきだぜ!」
青年が真っ青になったルイを励まそうと、じっと下から顔を覗き込んだ。
ルイはそのとき初めて、青年が燃えるような緋色の瞳をしていることに気がついた。
「でも……僕は……、ずっと傍に仕えると誓ったんです……。なのに……」
いつか、ずっと一緒にいると思っていたロランが突然目の前からいなくなってしまったときの孤独感を思い出した。
彼がどうして自分の前から去ったのかは未だ分からないが、今度はルイ自身が手を離してしまったという大きな失態をしてしまった。
「待てよ、まだ諦めるには早いぜ? よく考えても見ろよ、俺達だってあの嵐の中こうして生きてこの島に流れついたんだ。お前と一緒に流されたっていうそいつも、どっかで生きてる可能性だって十分あり得るだろ?」
気がつくと、ルイは青年の手を強く握り締めていた。
「ほんとに!? ほんとですか!?」
「えっ、ああ……」
僅かな希望を見出し、ルイはそれでもその希望に縋り付くしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!