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フェルデンは不可解そうに眉を顰めた。
昨晩は夕食後に出された飲み物にフェルデンは手をつけないままあの積荷の地下の一室へと向かったことを思い出した。
「一体誰が何の為に……?」
ユリウスがもう一度込み上げてきた吐き気を窓を開けてなんとかやり過ごすと、疲労し切った様子で答えた。
「あの人じゃないですか、元魔王の側近……」
「アザエルか?」
大きくかぶりを振ると、フェルデンは昨日の嵐で倒れたままにたなっている椅子を起こし、そこに腰掛けた。
「あいつはそんな手の込んだことはしない……」
確かにアザエルは昨晩から一度も二人の前に姿を現してはいなかった。
「じゃあ、どうしてあいつはこの船にいないんです? 昨日、おれ達を眠らせている間に逃げようという魂胆だったんじゃないですか?」
ユリウスの考えは一理あった。
しかし、あの魔王の側近がこんな面倒なことを仕掛けるとも考えにくい。
フェルデンは頭を悩ませた。
昨晩の嵐に紛れて、何か大きな影が動き出したような予感がした。
「間諜だ……。邪魔なおれ達を眠らせている間に、事を進めようとした何者かがこの船に潜んでいた……」
ユリウスはモスグリーンの瞳を揺らした。
フェルデンは度々送られてくる刺客や間諜のことを知っていたのだ。
「フェルデン殿下……!」
「お前がおれにゴーディアから刺客が送られてきていることを黙っていたのは知っていた。おれに心配を掛けまいとしたことも」
しゅんと下を向いてしまった部下に、フェルデンは知ってしまった真実を包み隠さず話した。
「ユリ、この船にアカネが乗船していた。おれは昨晩彼女に会ったんだ」
ユリウスは我耳を疑った。
とうとう悲しみに明け暮れたフェルデンが妄想まで抱き始めたのではないかと思ったのだ。
「誤解するな、それはおれの見た想像や幽霊の類じゃない。アカネは姿形こそ以前とは違ってはいるが、確かに生きて戻ってきていた」
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