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理解に苦しむフェルデンの話に、ユリウスは頭を抱え込んだ。
「おれが思うに、アカネはゴーディアの儀式とやらできっと何かされたんだ……!」
まだ腑に落ちないユリウスだったが、フェルデンが妄想にとりつかれている訳ではないことは理解した。
「……と言うことは、魔王の側近はそのことを全て知っているということになりますよね……?」
フェルデンはまたあの男にしてやられたと小憎らしげに思った。
あれ程朱音を失い悲しみに暮れるフェルデンの姿を目にしていたというのに、あの男は、表情一つ変えることなく朱音の存在を黙っていた。
まして、あの男が敵国の王子であるフェルデンにみすみすそんな情報を与えてくれることはまず考えられないが。
今、二つの出来事が交差していることに二人は勘付いた。
船に潜んでいた間諜……。そして同じ船に乗船していた朱音……。
「昨日の嵐に紛れ、何か大きな事が起こったに違いない……!」
一夜にして忽然と姿を消したアザエルと、朱音。
(アカネはどこかできっと生きている……!)
なぜかフェルデンは強くそう感じた。
朱音がサンタシの白亜城に居たときから感じていた、彼女がゴーディアにとって何か重要な存在だという予感は外れてはいない筈だ。
「おそらく、アザエルとアカネは一緒にいるだろう」
そう呟いたフェルデンのブラウンの瞳は、アザエルに対する怒りと、少女の生存への僅かな希望の入り混じった色を秘めていた。
(アカネ……、君はどうしていつも蝶のように俺の腕をすり抜けていってしまう……??)
ユリウスは、切なげに目を閉じたフェルデンの姿をじっと見つめていた。
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