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朱音の言葉に困惑したように、クリストフは、
「しかし……」
と、言葉を続けた。
「何事も無く検問所を通り抜けることができたらいいですが、仮に彼が逃亡中の奴隷だとわかったら、大変なことになります」
そしてその言葉の後は、朱音にそっと耳打ちした。
『アカネさんの正体まで調べられでもしたら収集がつかなくなってしまいます』
青くなって、朱音はしゅんと下を向いてしまう。
クリストフの言うように、もし検問所で朱音の正体がばれでもしたら、きっとこの旅はここで終息することとなり、朱音はゴーディアに無理矢理連れ戻されることとなるだろう。
それに、朱音を無断で連れ出した罪で、クリストフもただでは済まされない筈だ。
ただでさえ余計なことに関わらせ、これまでにも多大な迷惑を掛けまくっているクリストフに、これ以上の迷惑は掛けられない。
そう思う反面、目の前の哀れな男が朱音自身に重なって見えた。
朱音が元の世界に戻りたいと思うように、リストアーニャでずっと捕らえられてきたこの男にもきっとどこか別の故郷があって、帰りたいと思い続けてきたに違いない。
そう思うと、朱音にはそう簡単に男を切り捨てることはできなかった。
「それはよく分かってます……、クリストフさんにもこれ以上迷惑を掛けられないことも……。でも、無理矢理この国に連れて来られ、閉じ込められてきたことを思うと、なんとかできないかなって……」
朱音の悲しげな目を見て、クリストフは呆れたように肩を落とした。
「貴女がそこまで言うのなら、仕方無いですね……」
「ほ、本当かい!? 有難う! 旦那! お嬢さん!」
目に涙を浮かべて呼び跳ねる男に、クリストフは釘を刺した。
「いいですか、検問所を出るまでですよ? それに、わたし達も危なくなったらそのときはあなたとは他人の振りをします。それでもかまいませんか?」
男は何度も大きく頷いた。
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