第3章 旅編

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「おお! 構わねえさ! 有難う! 本当に有難う!」   思わぬところで旅の共が増えることとなり、クリストフは困り顔で笑いながら朱音の美しく整った横顔をちらりと見やった。 クリストフはどうも朱音にはついつい甘くなってしまう自分に苦笑を漏らした。 「あっしはボリスってんだ。この恩は必ず返すからよ、そうだ! もし無事に検問所を通り抜けられたら、魔光石を譲り受けた相手の名前を教えてやる! 約束だ!」   痩せ身の男、ボリスは軽快に二人の後をついて行く。   クリストフは咳払いを一つすると、もう一度ハットを深く被り直した。    「最後まで任務を果たせず申し訳ありませんでした。ヴィクトル陛下にこの書状をお渡し頂けると有難い」 と、アルノはリストアーニャの船着き場で、ヴィクトル王宛てに認めた文をフェルデンに託した。 「書状は確かに預かった。おれの怪我のせいでそれでなくとも帰還が遅れてしまっている。先に行くことを許してくれ……。ヴィクトル陛下にはおれからうまく伝えておくよ」   フェルデンはアルノの丸い手をしかと握った。 「世話になったな。リーベル号の修理が終わったら、必ずディアーゼ港へ戻ってきてくれ」   そのすぐ隣で、ユリウスがアルノに手を差し出す。 「アルノ船長、フェルデン殿下から嵐の夜の話を聞きました。失くしたものが多かったけれど、貴方の腕は失われてはいません。いつの日か、同じサンタシの同志として共に働ける日を待っています」   力無く微笑むと、アルノはユリウスを握るだけの握手を交わした。   二人は、リーベル号の修繕におそらく長期間を有するだろうとの判断で、ここからは陸地を通っての進路をとった。   世話になったリーベル号の乗り組み員達や船長と挨拶を交わすと、二人は旅を再開させた。   ボウレドで出会ったフレゴリーの腕が余程良かったのか、完全では無いものの、フェルデンの肩の傷は格段に良くなっていた。
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