第1章 サンタシ編

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「目が覚めたんだな」   突然背後から聞き覚えのある男の声が降ってくる。   慌てて身体を反転させて振り向くと、昨晩、山の中で見たあの金髪の青年、フェルデンが柔らかい笑みを浮かべてそこに立っていた。 「足……、出血しているな。しばらくは歩くのを控えた方がいいだろう」   心配そうなフェルデンの顔をじっと見つめたまま、朱音は静止画のように動かなくなった。   それというのも、昨晩は暗がりの中であまりよく見ていなかったが、フェルデンの容姿はあの碧い瞳の男、アザエルに負けずとも劣らない、彫刻のように美しいものだったのである。   細身で女性的な印象を与えるアザエルに比べ、フェルデンの身躯は鍛え抜かれた男らしい印象で、短い金の髪はきりりと引き締まった美しい顔を更に上品に見せていた。透けるようなブラウンの瞳は、まだほんの少し少年の頃の名残を残していて、朱音への純真な興味の色が伺える。 「アカネ?」 ふいにフェルデンの口から自分の名が飛び出した途端、ほんのりと桜色の頬を染めた朱音が慌ててむくりと身体を起こした。   長身のフェルデンは白を基調とした軍事服のような服を身につけ、詰襟の際には金の刺繍が美しく施されている。 併せ襟のマントさえも白く、その下から僅かに覗く質の良い皮ブーツだけが唯一の茶だ。   これだけでも、この青年が大層身分の高い者だということは朱音にもわかった。 「フェ、フェルデンさん。た、助けていただいて本当にありがとうございました」   カチコチになったままぎこちなく礼の言葉を口にする朱音の姿を微笑ましく思ったのか、フェルデンは口元をふっと緩めると、穏やかな口調で言った。 「畏まらなくていい。おれのことはフェルデンと呼んでくれ」   フェルデンはゆっくりと朱音の前で腰を落とした。   いきなりすぐ目の前までフェルデンの美しい顔が降りてくると、美形に免疫のない朱音は耳まで真っ赤にしてふっと目線を逸らせた。
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